2007年8月18日土曜日

中島和子 『バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること』 (アルク)

中島和子 『バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること』 (アルク)


◆ 著者について

中島和子(なかじまかずこ)

1936年、東京都出身。国際基督教大学言語科でB.A.(言語学)、M.A.(英語教育・日本語教育)、 トロント大学東アジア学科でPHIL.M.(日本語学)を取得。トロント大学教授を経て、現在名
古屋外国語大学外国語学部及び日本語教育センター教授。
主著 『言葉と教育』著(海外子女教育振興財団1998)、『継承語としての日本語教育―カナダの経験を踏まえて』編著(カナダ日本語教育振興会1997)、”Learning Japanese in the Network Society” 編著 (University of Calgary Press, 2002) ほか

◆ 本書の構成

第1章 バイリンガルとは?
第2章 子どもの母語の発達と年齢
第3章 バイリンガル教育の理論
第4章 家庭で育てるバイリンガル
第5章 イマージョン方式のバイリンガル教育
第6章 アメリカのバイリンガル教育
第7章 海外子女とバイリンガル教育
第8章 日系人子女とバイリンガル教育
第9章 バイリンガルと文化の習得
第10章 バイリンガル教育への疑問
第11章 バイリンガル教育の外国語教育への貢献


今回、Study Hall では、まず、「バイリンガル」の定義と分類を知り(第1章)、次に、バイリンガルには必要不可欠な土台となる母語・母文化の発達・形成と年齢との関係について学び(第2章)、そして、著者のカナダでの子育て経験を通して私たちの「英語子育て」へのヒントを模索し(第4章)、最後に、イマージョンプログラムの発祥の地であるカナダに在住し、長らく言語学を研究してきた著者が紹介するフレンチ・イマージョンの成功の要因と問題点(第5章)について学んでいきたいと思う。


◆ 第1章「バイリンガルとは?」レジュメ

1 「バイリンガル」の定義

「バイリンガル」→「2つのことばをきちんと使い分ける力を持った人」 

※3言語なら→トライリンガル、4言語なら→クワドリンガル、1言語なら→モノリンガル
※とかくバイリンガルというと、理想的な2言語話者を想像しがちであるが、2つのことばを同じレベルで維持するのは難しい。実際には不完全なバイリンガルがたくさんいるし、むしろ不完全なのがノーマルだとも言える。

2 バイリンガルおよびバイリンガリズムの分類

【1】2言語の到達度と知的発達への影響による分類(Cummins1978・加)

① 「2言語(高度発達)型」(バランス・バイリンガル)
→2言語とも年齢相応のレベルまで発達している。知的発達への影響:プラス
② 「1言語(高度発達)型」(ドミナント・バイリンガル)
→1言語のみ年齢相応のレベルまで発達している。知的発達への影響:プラスの影響もマイナスの影響もない
③ 「2言語低迷型」(ダブル・リミテッド・バイリンガル)
→2言語とも年齢相応のレベルに達していない。知的発達への影響:マイナス

【2】4技能(「聞く」・「話す」・「読む」・「書く」)による分類

① 「聴解型バイリンガル」
→「聞く」ことは2つのことばでできるが、その他はすべて1つだけ
② 「会話型バイリンガル」
→「聞く」「話す」は両方でできるが、「読む」「書く」は1つのことばでしかできない
③ 「読み書き型バイリンガル(バイリテラル)」
→「聞く」「話す」「読む」「書く」ができる

※最近では、読み書き能力は単なることばのスキルというよりは、子どもの認知力、学力全体の発達と密接な関係あり、会話面と比べてその習得に非常に時間がかかることから、バイリンガルのことばの発達を論ずる上で、会話面と、認知・学力面は分けて考える必要があると認識されている。

【3】発達過程による分類(Hammars&Blanc1989・加)

① 「継起発達バイリンガル」 
→1つのことばが先行して、その上に第2の言語が加わる場合
② 「同時発達バイリンガル」 
→毎日の生活を通して2つのことばに同時に接触する場合

※実際問題としては、この2つをはっきり区別するのが難しい場合が多い。

【4】文化習得による分類

① 「モノカルチュラル」 
→2つのことばが流暢に話せても、価値観、ものの感じ方、行動パターンでは1つだけ
② 「バイカルチュラル」 
→文化習得を伴うバイリンガル
③ 「デカルチュラル」 
→多文化に触れて育った結果どこの文化にも属せなくなった

※同じ文化習得でも、理解・認知面(頭で理解できること)、行動面(無意識に期待される振る舞いができること)、心境面(感情の動き)では、習得の度合いが異なり、理解はできても行動はできないこと、理解も行動もできても心情面が伴わないことがある。
※子どもの場合は、年齢が低ければ低いほど認知・行動・心境すべての面で異文化を習得する

【5】母語集団の社会的地位との関連による分類(Lambert1977・加)

① 「アディティブ・バイリンガリズム」 
→母語の上にもう1つの有用なことばが加わり、しかもアイデンティティがくずれない2言語接触の状況
② 「サブトラクティブ・バイリンガリズム」 
→2言語環境に育ちながらもモノリンガルになってしまう状況

【6】社会集団との関連で見た到達目標と教育形態による分類(Fishman1976・米)
→社会言語学的立場から少数言語を母語とする子どもに焦点を当て、バイリンガル教育の形態をその送達目標によって分類
① 「過渡的バイリンガリズム」 
→主要言語の授業についていけるようになるまで一時的に2言語を使用する(アメリカのバイリンガル教育がその例。英語のモノリンガルを育てるための、過渡的2言語使用である)
② 「読み書き1言語のバイリンガリズム」 
→話すことは2言語でできるが、読み書きは主要言語だけ(家庭生活を円滑にするために子どもたちの母語で会話する力は奨励するが、教科学習はすべて主要言語で行う)
③ 「部分的バイリンガリズム」 
→話すことも読み書きも2言語を目指すが、読み書きは自国文化の保持と関係がある部分だけを2言語で行う(ブラジルやハワイなどの日本語学校で行われる継承語教育がその例)
④ 「フル・バイリンガリズム」 
→すべての領域で2言語の発達を目指す

※フィッシマンは、④「フル・バイリンガリズム」(つまり「バランス・バイリンガル」、「アディティブ・バイリンガル」)の理想的な形がカナダのイマージョン方式のバイリンガル教育であると言っている

3 教育者が目標にすべき次世代の「バイリンガルの理想像」3つの要件(Landry&Allard1991)

(1) 両言語が会話力でも読み書きの能力でも高度に発達していること(「バイリテラル」「バランス・バイリンガル」)
(2) 両言語の文化に対して前向きの心的態度を持つと同時に母文化に対して文化の担い手としてのアイデンティティを持っていること(「バイカルチュラル」だが母文化・母語集団へのアイデンティティを失わない)
(3) 1つのアイデンティティをしっかり持っているバイリンガル、バイカルチュラルで、しかも両言語が隔たりなく使えること(両言語がいろいろな領域で広く使え、しかも混合せずに使える)